30周年 生徒からの手紙2

ピアノを習い始めてから二十年以上が経ちました。長いピアノ人生を通して得た事は大きく三つあり、それらは全て、田代先生が私に与えてくれた大切なことだと感じています。

一つ目は「音楽とは何かを教えてくれたこと」です。ピアノの演奏スキルだけではなく、音楽を通して磨かれた表現力や感性は、私の人生を豊かなものにしてくれています。目に見えない音を感じ取る力は、音楽の領域を超え、物事を色鮮やかなものに捉える際の手助けとなっています。音楽が持つ本来の楽しさ・素晴らしさを学ぶことができたのは「音楽は人生を豊かにする」ということを教えてくださった、田代先生のご指導のおかげだと感じています。

二つ目は「人生における大切なことを気づかせてくれたこと」です。小学校で初めてコンクールに参加した際、本番で思うような結果を残せず落ち込んでいる私に対し先生は「落ち込んでいる暇はないのよ。次のステージに向けて今何ができるかを考えて練習することが大事なのよ。」と声を掛けてくださいました。壁にぶつかり、そこから這い上がるには相当のエネルギーが必要となりますが、ただ落ち込んでいるだけでは何も生まれず、次に向かって自分を奮い立たせなければいけません。当時、落ち込む私を強い言葉で引っ張ってくださった先生のあの言葉により、何かに本気で立ち向かう時の心構えや覚悟を学ぶことができました。

また、ピアノを習い始めた頃は人前に立つことがとにかく苦手で発表会やステップという本番では不安ばかり抱えていました。しかし、本番を重ねていくうちに、緊張の中自分をコントロールする術が身に付きました。これは、「舞台に立ったら自分だけの力でその舞台を終わらせなさい」という田代先生の昔からの教訓により、自分の力で何度も舞台を乗り越えて来たことが自信に繋がったからだと感じます。

三つ目は「自分らしくいられる時間を与えてくれたこと」です。ピアノに触れる時間は組織や肩書きに関係なく、唯一昔から変わらない空間となっています。そのため、毎週のレッスン時間は、日頃自分が背負っている物を全ておろし、本来の自分に戻ったように感じます。ピアノを演奏する時間、田代先生とのレッスン時間をこのように感じることができるのは、私の心を素直にさせてくれる音楽の力に加え、田代先生がどのような状況下でも、一人の人として私を尊重し、接してくださっているからだと思います。

よく、何故ピアノを長年続けているのか、どうしてピアノを弾いているのかを問われることがあります。私がピアノを弾き続けている理由は幼少期から変化しており、幼い頃は純粋にピアノが上手になりたい、という気持ちでした。その後、いろいろな曲を弾けるようになり、もっと演奏できる曲を増やして多くの曲に触れたいという想いに変わり、今は、ピアノに触れる時間が自分らしくいられる大切な時間になっています。

これまで述べた「先生が私に与えてくれた三つのこと」に対し、私は先生に恩返しができているのだろうか、と思う時があります。私から先生に何かを教えられるわけではなく、先生が私に与えてくれたことをそのまま返すこともできません。しかし、私ができる唯一の方法があります。それは音楽を通して成長する姿を見てもらうこと、伝えることです。先生はよく「子供たちの成長する姿を見ることができて嬉しい」と口にしており、きっと、私たち生徒が先生に伝えられる最大の感謝は、音楽を通して成長する姿を見てもらうことだと感じます。

今後も私はピアノを弾き続け、先生に感謝を伝えていきたいです。そのためにも、先生にはこれからもずっと健康に過ごしていって欲しいな。と思います。

古里 彩乃

Author: chiemi tashiro